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先生を流産させる会追記   

「先生を流産させる会」の記事で、
①元になった事件
②タイトル、内容の問題について
③役者、映像、音…全てが怖い
④ミヅキとはなんなのか?
⑤モンスターペアレント
⑥まとめ
の内、①と②まで書きましたが、今回は、③以降、映画そのものについて、書いて行きたいと思います。


③役者、映像、音…全てが怖い

前回も書きましたが、妊婦というだけで、僕は見ててハラハラするのですが、その妊婦の先生を流産させようとする話なので、個人的にずっと緊張感がありました。
しかも出て来る中学生が、ミズキ(小林香織)を除き、本当に田舎のリアルな女子中学生みたいで、そんな普通の女の子達が、こんな恐ろしい事をするというのが、また怖さを助長してます。
一方、妊娠してるサワコ先生(宮田亜紀)も、美人だけどかなりハキハキしてる厳しい人で、生徒達を怒る時には、ちゃんと怖い先生でした。
そして極め付けは、生徒の母親(大沼百合子)です。彼女に関しては、ムカつく部分が多いけど、やっぱり怖い部分もありました。我が子かわいさにミズキに吐き捨てる、あの台詞は、ゾッとしましたし、ラストの狂気も恐ろしかったです。

そして、その恐怖を増長するのが、音と音楽でした。
とにかく音がデカイ!
正直、ちょっとズレてて変な所もありましたけど、デカイ音が鳴る度に、ビクッとしてる自分がいました。
後、音楽もかっこいいけど、怖い…というか、人の不安を駆り立てる音楽でしたね。好きですよ。
やっぱり、この音も含めて、この映画の怖さなのは間違い無いので、観ようと思う人は、映画館で観た方が、絶対イイと思います。(そもそもDVDになるかもわからないですしね。)

それと映像も、高いカメラを使って無いからか、その辺わかりませんけど、ちょっと昔っぽくて、それもまた怖いんですよね。

と、他の人は、この映画をどう捉えたかはわかりませんけど、僕は完全にホラーとして楽しみました。


④ミヅキとはなんなのか?

先程からちょこちょこと名前を出してますが、小林香織さんが演じたミズキというキャラクターについて考えてみたいと思います。
先生を流産させる会追記_a0250573_23465578.jpg
ちょっとブラジルの血が入ってそうな、かわいらしい女の子なんですが、この娘が怖いんですよ。
ちなみに、小林香織さんは演技経験も無かったみたいですよ。

あまりしゃべらないから何を考えてるかわからないですけど、セックス、性、生理、生命に対して、異常な嫌悪感を持ってる感じです。
いつだったか性というのを自覚し始めた時、男子である僕でさえ(もしかしたら男子だからかも知れませんが)、性に興味がある一方で、大人がセックスをしてる事に戸惑いを感じましたし、気持ち悪いと思った事もあります。それで監督も男性なので、もしかしたら、そんなの男だけなんじゃないの?と思いましたが、
少女の少女による少女のための母性神話否定に果敢に踏み込んだことで、内藤監督は大勢の女性から反発をくらうことでしょう。
でも、わたしは断然味方です。
すべての女が妊娠・出産を手放しで礼賛しているわけじゃない。
生理、不愉快。セックス、キモい。妊娠、不潔。そう思った13歳のわたしが、この映画の中にいます。
ーーー豊崎由美(ライター)
と女性も言ってるので、男女問わず、人によって差はあれど、性に対する違和感はあるのでしょう。

そもそも彼女の動機は、「サワコ先生子供が出来たって事は、セックスしたって事かな~?気持ち悪くない?」ですからね。そして、彼女自身もその原因は、把握出来て無いという…。ただ、性に対する憎悪だけで、お腹の赤ちゃんを殺そうとしてる訳です。

そんな感じの彼女で、超ヒールな訳ですが、これはわざとそういう作りにしてるんだと思いますが、恐ろしいんだけど嫌いになれなかったです。
〝まだ未熟な存在〟だからというのもありますけど、例えば、「告白」のあの少年は、観てて本当にムカつきましたし、映画やドラマなどでタチ悪い少年少女、こちらがお前ら殺されてもしょうがないわ。とつい思ってしまう少年少女は出て来ますが、ミズキは、本当に悪い子なのだろうか?とこちらに考えさせる余地がある。と僕は思いました。

なぜミズキがムカつかないかと言えば、いやらしい計算の元に、犯罪を犯してるのでは無く、性に対しての意味不明の嫌悪感という純粋悪から来てる悪意だからじゃないかと思うんです。

例えば、「告白」のあの少年みたいな奴って、本当にいるのか?と思ってしまいます。生意気な子供で計算高く犯罪に手を染める子供はいるでしょうけど、あそこまで徹底して、根っこから何もかも腐っててムカつく中高生って、実はあんまりいなくて、大人が創り出した最低の少年像なんじゃないか?と思わなくもないんですよ。確かにあれに近い子供も本当にいるのかも知れないですが、子供って一人の少年が全部の悪意を背負ってる訳じゃなくて、皆がそれぞれに少しづつ個人的な悪意を持ってる存在なんじゃないの?って思うんですよね。それを実行に移すかどうかは別にして。だから「告白」の少年なんかは、かなり特殊な人間って事だと思うんですよ。まぁそういうムカつく奴をやりこめるから観てる方は、スカッとして楽しかったと思うのは間違いないけど、本当に実在するのかわからない様な特殊な少年少女を懲らしめても、そうじゃない人の方がおそらく多いのだから教育映画としては、あんまり意味が無いんじゃ…と思うんですよね。

前の記事で面白ければなんでもいいと書いておいてなんですけど、こうやって考えを追求してみるとそんな僕にも許せない範囲があるみたいで。
教育映画ぶってるけど、そんな特殊な少年少女を痛い目に合わせて、そしてそれに観客もスカッとするなんて、どこか間違ってるとも思うんですよね。実際、「告白」を観てる間は、あいつが痛い目に遭えばいいと思ってましたし、カタルシスも感じたけど、後で振り返って、やっぱり何かがおかしくないかな?と思ってしまって。
実際に、少年法を悪用してる奴らもいるのかも知れないけどですけどね。

それに、僕は暴力映画とかも好きなんで、なんで、そういうのだけ胸糞悪いんだろう?って考えてみたんですけど、突き詰めると良い事を言ってるフリをして、安易に面白さ優先で、実際はとんでもない事を提示してる事が嫌なのかも知れないです。だから映画って怖いんですよね。実際、そのとんでもない事を支持する人が出て来る訳ですから。
ぶっちゃけ「レンタネコ」にもそれを感じます。「レンタネコ」は、面白くも無いですけど。

一方の「先生を流産させる会」の少女達は、本当に実在しそう、もっと言えば普通のコ達なんですよね。リアルで普通っぽい少年少女の疑問から生まれた悪意をどう教育するのか?と言う方が、大切だと思うんですよ。
なぜかというとそうする事で、僕達私達の問題になると思うからです。

自分に当てはまらない特殊な子供なんて、別に何をしようと響かないけど、自分の延長線上の子供ならちゃんと考えさせられるじゃないですか。

話が、それましたが、ミズキとは、今まで書いて来た様に、ちょっと暗めの普通の女の子な訳です。だから僕らは、彼女にそこまでムカつきを抱かないんだと思います。そして、それは至極真っ当な描き方だと僕は思ってます。

ただし、非常に怖くて、危うい存在なのは間違いないですよー!


⑤モンスターペアレント

では、観客は誰に怒りの感情を向けるのか?それが、一人の生徒の母親です。

彼女は、所謂モンスターペアレントで、我が子さえ良ければいい。その考えしかないので、善悪関係無く先生にキツく当たります。
この理不尽な要求をする保護者は、たまにニュースなどで取り上げられますが、こうい人は実際いるでしょうね。観てて、本当にむかっ腹が立ちましたよ。

観客が、少女達に怒りを向かわせるんじゃなくて、彼女に怒りを向かわせるのは、監督の意図的なのかは、わかりませんけど、僕は、それが良かったと思います。

そもそも諸悪の根源はしっかり教育出来て無い大人なんだろうし、やっぱり大人が悪役を一身に背負って欲しいですね。(なんだろうという言い方にしたのは、例えば、さかきばらの場合、原因が特殊な過ぎる性的な欲求だったらしく、一概に親の責任と言えるのか難しいので)

この母親役を演じてる大沼百合子さんの演技の素晴らしさもあって、むかつかせてくれましたよ!


⑥まとめ

そして、最後の先生のミズキにしたあの行動。
彼女は、皮肉にも真の教育者になった瞬間でした。
あの状況で、現実にそういう行動に出れる人間は、どれだけいるのかわからないですけど、教師とは、大人とは、本来こうでなければいけないと強く思いました。

と、タイトルは衝撃的で、ふざけてると思う人もいますけど、実際、中身はそんな事無くて、最後まで見ると真面目な映画になってると思います。
なので、上辺だけ見て批判するんじゃなく、やっぱり観てから文句を言った方が、いいかなと思います。
良い事を言ってる風なタイトルやパッケージで、とんでも道徳を提示する映画なんて、それこそ腐るほどありますから。

観た上で、これは酷い!と思う人もいるとは思います。

僕は、なかなか素晴らしい作品だと思いました。道徳抜きにしても、ホラーとして面白かったですよ。

by eigasirouto | 2012-06-06 01:31 | 追記、修正など

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